193年13日:お誘いの話-こんらん-

「僕と付き合って欲しいんだ…」
(…ええー?)
ローク・エルグ前…つまり家の前でバルトロメイからこんな事を言われ、ポーラは自分の耳を疑った。
あの日のバルトロメイの行動は、ある意味ポーラがジョシュアと付き合い始めた間接的な原因であるだけに、このタイミングでそのバルトロメイから告白される事など考えもしていなかった。
あまり驚きすぎて、収穫したばかりのワクマを全部手放してしまったほどだ。
周りにゴロゴロと採れたてのワクマの転がるシュールな風景の中、ポーラはやっとの事で返事をした。
「ご…ごめんなさい…」
「うーん、やっぱりダメかぁ」
断りの言葉を聞いてもさしてショックを受けるでもなく、さらりと笑って引き下がるバルトロメイ。
ポーラの落としたワクマを拾い集めて、「はい」と全て手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます…。
 …って言うか、何で?
 だってバルトロメイさんってば、エジョフさんとお付き合いしているんじゃなかったんですか?」
「え? もちろんしてるよ。
 彼女とも時々遊びに行ってる」
「彼女と『も』…?」
なんだか不穏な意味の言葉が聞こえた気がした。
ポーラのささやかな突っ込みに、バルトロメイは軽く笑って答える。
「うん、実はさ、ヘイリーさんとも時々遊びに行っててさ」
「…ええー!」
今度はさすがに声に出してしまった。
「ヘイリーさんって、うちのエルグのグロモフさんの事ですよね?
 そ、それってどういう事ですか!」
「うん、あのね。前にチェン君が言ってたでしょ?
 『いつか会える最良の相手』を見つける為に、いろんな人を見てる、って。
 ミコトさんもそういうタイプでさ。
 話してて、なんか納得いったんだよね。
 だから僕も最近は、いろんな人とお付き合いをしてるんだ」
「…うわぁ…」
これにはさすがのポーラも軽く笑顔が引きつったのだった。
「だからさ、ポーラちゃんとはどうなのかなぁ、って思ってさ。
 試しに一緒に遊びに行ってみない?」
「うーん…。やっぱりゴメンナサイなのよ。
 私はやっぱり、『おつきあい』をするなら相手はひとりがいいかなぁ、って思ってて…」
「今はジョシュア君とお付き合いをしているからダメ、って事?」
「そうです…」
「なるほどね。それならまぁ仕方ないかなぁ。
 でも、ちょっとだけでも考えてみてね」
そう言い残して、バルトロメイはロークの畑の方へと歩き去っていった。
ポーラは呆然とその後姿を見送ったのだった。

 

「…ジョシュアさーん」
夕方、王宮前大通り。
この日のポーラは、仕事の後でわざわざ酔いどれ騎士亭前まで出向いてジョシュアをつかまえた。
騎士亭に入る直前だったジョシュアを大通りのベンチにまで引っ張りだして、今日あった事を報告する。
多少混乱気味のポーラの報告を最後まで聞くと、ジョシュアはむしろ感心したような声を出した。
「…へぇ、バルトロメイがねぇ。
 エジョフさんに振り回されてるのかと思ったら、むしろ自分が周りを振り回す方になってたのか」
「振り回す…そ、そんな感じなのかなぁ。
 私もいきなりあんな事言われて、ビックリしちゃったんですよ」
「で? お前はどうしたんだ?
 せっかくだから付き合ってみるのか?」
ジョシュアはジョシュアでまた、ポーラの想定外な事をさらりと言ってのけた。慌ててポーラは全力で否定する。
「そ、そんな訳ないじゃないですか!」
「なんだ、違ったのか。
 ある意味チャンスだったんだから、付き合ってみればよかったのに」
「ええー?
 い、一応私ジョシュアさんの『恋人』になるのに、
 その恋人からそういう事言われるのも、ちょっと…」
「え? だってなぁ。
 お前の判断を否定する事はオレにはできないだろ。
 お前の人生なんだから、お前が好きなようにすればいい。
 実際オレだってそうしてるしな」
ポーラは全身で脱力した。
(…そう言えばジョシュアさんもそういうヒトでした…)
バルトロメイがああなる前から。ポーラと『お付き合い』を始めてからも。悪びれもせずに別の方と何度も遊びに行っている人だ。
どう考えても相談する相手を間違ったらしい。
「…でも、なんかイイコト言ってるみたいにも聞こえるんですよねぇ」
「オレは相手の意思を尊重しているだけだよ」
だからその言いようが『イイコト』に聞こえるんだという主張は無駄だと思ったので、あえてしない事にした。
ベンチの背もたれに体を預け、軽くため息をつく。
そんなポーラを気にもせず、ジョシュアはまたいつもどおりの口調で翌日の予定を聞いてきた。
「…なぁ、お前明日どうする?
 オレまた空いてるんだけど、どこかに行くか?」
「え? あ、ハイ。行きますよ。
 じゃあ明日、王宮前通りで待ち合わせ、でいいんですか?」
「ああ、それでいいよ」
そう言うとジョシュアはベンチから立ち上がり、軽く伸びをした。
「さて、と。
 オレは今から酒場に行くけど、一緒に来るか?」
「んー、それもいいんですけどねぇ」
「まぁ、気乗りしないなら今日は止めとけ。
 …あんまり考えすぎんなよ」
ポーラの頭を軽く叩くと、ジョシュアはそのままヒラヒラと手を振りつつ、酔いどれ騎士亭の方へと歩き去っていった。

 

ポーラは1人、ぼんやり考える。
ジョシュアもバルトロメイも、嫌いな相手ではない。
2人とも正直、イイオトコだと思う。人気があるのもわかる。
自分と一緒にいてくれると、とても楽しい。
性格は全然違うけれど、なんだかんだ言っても2人とも、自分の事をわかってくれている相手だ。
でも…。
「たくさんの中のひとり、って、どうなのかなぁ…」
誰に聞かせるでもなく、つぶやく。
今のポーラが1番気にしているのは、ここだった。
この国には彼らのように、同時に複数の相手と『おつきあい』をしている人がたくさんいる。
それが普通なのかもしれないけれど、移住者であるポーラには同じ事はできそうにない。
どうしても、抵抗がある。
誰かを特別だと思いたい。
誰かに特別だと思ってもらいたい。
その願いは多分、それなりな形で叶っているのだろう。
ただ想定外だったのは、誰かに『特別だと思われている人たちの中の1人』になった、という事だけ。
ホントにいいのかな。
このままでいいのかなぁ。

 

ずっとそんな事を考えていたから。

 

翌日ジョシュアと行ったテト海岸で、彼と『先に進む』事を躊躇してしまったんだ、と、思う。

 

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***

照れ隠しと言う名のコメント

バルトロメイさんのはっちゃけっぷりと、ジョシュアさんとのテト海岸デートの話。
とは言ってもデートの方はさらっと流しましたが。

 

冒頭でいきなり、軽くなったバルトロメイさんにマジ告白されてますが、これもゲーム内史実です。
よりによってお付き合い中に言ってきやがりましたからねこの男(笑)。それまでは冗談告白だけだったのに。
モテクイーンとお付き合いを開始した事で妙なスイッチが入っちゃったのか何か知りませんが、この後バルトロメイさんは無駄に暴れまくりでした。
まぁその割に、翌年にはヘイリーさんとあっさり結婚してたんですけど。問題は結婚後だったんですけど!
よりによって結婚式翌日にポーラにマジ告白をかまし、その10日後に今度は新婚の奥様の前でポーラにアタックorz
ホントどうしちゃったのこの人。
まぁそういう人でしたので、その片鱗をうかがわせるようなキャラと化しました。こんな人だとは思ってなかったですよ、えぇ初めて友人関係を結んだ時には。

 

デートの表記ですけど、ゲーム内では(ほぼ)同じスポットでそれぞれがリードしたデートが成功しないと先に進めないみたいな感じでしたが。
同じ場所のデートを何度も書くのはアフォらしいので、各場所につき1エピソード、みたいなまとめでいこうと思ってます。
実際のところはテト海岸に2回来てます(そしてどちらでも進行しなかった)が、ネタとして書くのは1回だけって感じで。

 

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