193年20日:ナルル王宮前の話-コンテスト-

ポーラがこの国に移住してきてから、2度目のエナの日。
この日は1日中、国内に日の光が射さず、国中を光るワフ虫が飛び交う。
それはまるで、ひとの手の届く位置に空から星が降りてきているかのような、幻想的な光景だった。
ふわりふわりと地上を漂う、星の群れ。年に一度の風景。
そんな日でも、ポーラの朝の日課は変わらない。
いつものようにココモ畑に顔を出し、育ち途中のココモ達に目を配る。
仕事が休みの日でも気を抜かない。
数日後に迫る収穫の日まで、この作業は毎日続く。
収穫したココモをワインにし、熟成させて出荷する。それは、ローク・エルグの大切な仕事。
美味しいワインを飲んでもらうためにも、日々、気を抜かずにしっかりと。
エルグのみんなの頑張りで、ココモは今日も、みんな元気。
「…おっきく育つといいですね」
薄闇の中でもほんのりと緑色のココモに向かって、ポーラはそうつぶやいた。
その声に答えるように、ココモはさわさわと葉を揺らした。

 

日課を終えたポーラは、ナルル王宮前へと向かった。
エナの日の今日は、独身の男女の中からもっとも魅力的な人を選ぶ『エナの子コンテスト』が開催される。
この日、ナルル王宮前には国中の独身男女が集まる。
コンテストは、この国で最も魅力的な人を決める物であると同時に、独身の男女が新たな出会いを求める場所でもあった。
のんびりと王宮前に移動すると、そこにはすでにたくさんの男女が集まり、楽しそうに話をしていた。
なんだかぼんやりと生活をしていたら、いつの間にか王宮前大通りの掲示板に『人気者』として名前の載ってしまったポーラ。
人が集まってくるから名前が載ったのか、それとも名前が載ったから人が集まってくるのか。最近は、どこにいても誰かがやってきて、楽しい話題に花が咲くようになっていた。
この日も、王宮前にやってきたポーラに気づいた人々が笑顔で集まってきた。
「あっ、ポーラちゃんこんにちは!」
「コンニチワ! 今年もこの日が来ましたねぇ」
「そうね、なんだかドキドキするのよね」
「別に自分が選ばれるわけでもないんだけどね」
この日の話題は、やはり、これから始まるエナの子コンテストの事だった。
選ぶ側も選ばれる側も、ささやかな緊張感に包まれている。
それはお祭り特有の雰囲気。日常とは少し違うひとときに飲み込まれた証拠。
「そういえば、今年は去年から3人も候補者が変わったんだよ」
「そうなんですか?
 皆さん、誰に投票するか、決めました?」
「え?
 …君が出ていないから、決められないんだ」
「え、それってどういう事ですか?」
「フフ、ナイショだよ」
「ええー、ずるいですよソレ!」
やり取りも、普段よりもどこか甘い。
「ハハ、そういうポーラは誰に投票するんだよ」
「それはもちろん、『あなたが出ていないから、決められない』のよ」
甘い問いには甘い答えを。
いたずらっぽい笑顔で返すポーラも、横から突っ込まれた。
「ポーラだって、人の事言えないくらいズルイじゃないの」
「ウフフー。
 まぁ冗談はともかく、まだどなたが候補者さんなのか知らないので
 誰、って言う事ができないんですけどね」
「そりゃそうか。
 …っと、そろそろ始まるな。
 じゃ、またな!」
「またね、ポーラちゃん」
「はーい!」
神官による開会の挨拶、そして候補者達の挨拶が始まると、その場にいた人々は皆前を向き、それぞれの候補者の発言に耳を傾ける。
(今年は、男性がウジェーヌ・エッカートさんと、ロゲール・ミローさん。
 女性がミコト・エジョフさんとリタ・ケレルさん、ですか)
ポーラも候補者4人の挨拶を聞いた。
(どうしようかなぁ…)
投票できる相手は、たった一人。
時間内にこの4人から誰か1人を選んで、投票しなければならない。
人々が投票のために候補者たちへと向かう姿をぼんやりと見ながら、ポーラはまだ悩んでいた。
(エッカートさんとミローさんは、時々道で話しかけられたりするんですよねぇ)
投票のために寄ってきた独身女性たちに笑顔で対応する2人を見る。
2人とも茶髪の好青年。エッカートさんは丸めの輪郭で癖のある前髪が特徴的。ミローさんは比較的がっしりしていて、ほんのりたれ目。たれ目のポーラは少しだけ親近感を抱いている。
なんとなく、ミローさんの方に票が集まっている気はするけれど、多分僅差だろう。
(エジョフさんは…あ、バルトロメイさんが投票してる。そういえば彼女さんでしたっけ)
褐色の肌に、長い黒髪をポニーテールにしている女性と、その彼女に笑顔で寄って投票する友人を眺めた。
去年に引き続いて候補になったのは彼女だけ。それだけあって、魅力的な女性だ。ほんのりと色気すら感じる。
バルトロメイだけでなく、他の男性からも票を集めているようだった。
(で、最後のケレルさんは…あれ?)
4人目。金髪のポニーテールの女性を見ると、彼女に投票しようとしている男性の中に、見知った顔を見つけた。
(…トーンさんだ。ケレルさんに投票したんだ)
投票の後も2人は、相当親し気に会話をしているように見えた。
ポーラが今までに彼とやり取りをしたのは、ほんの数度しかないが、その時には見られなかった『気安さ』のようなものが、2人の間に見て取れた。
時々見ていたなんとなく不機嫌そうな表情も、今はほんの少しだけ柔らかい。
(…なんだか、ちょっとレアな光景を見てる気がしますね…)
フフ、と軽く笑って、ポーラは視線を離した。
のんびり見学しているだけという訳にはいかない。
少しだけ考えて、心に決めた相手に向かって歩き出した。

 

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***

照れ隠しと言う名のコメント

エナコンの日です。
もちろんこの日も仕事は欠かしてません。ワーカホリックなのはポーラと言うより中の人。
当時は毎日朝ご飯を食べると言う発想もなく。

  朝だ! → ダッシュでココモ畑へ → 虫取り → …さて、今日は何しよう

なんて生活を繰り返していました。
実はゲーム内でちゃんとご飯を食べる生活を始めたのは結婚後です。そりゃあ『家事の残念な娘』にもなるわ(笑)。

候補者の見た目を軽く説明するとして。
普通なら『0系男子』とか言えるんですけど、物語の中でそんな説明をするわけにはいかない(笑)ので、表現に微妙に苦労しました。
ちなみにウジェーヌさんが3系でロゲールさんは0系。
ミコトさんが1系で、リタさん0系になります。

…ちなみに。
この時、ポーラが誰に投票したのかは忘れました(笑)。
プレイ日記にも、優勝者についての記述はあったんですけど、誰に入れたかとかはスクショすらも残ってなかったんですよねぇ…。
なのでこちらでも、ぼかした書き方になりました。

 

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