193年15日:バスの砂浜の話-さよなら-

その日ポーラは、珍しくバスの砂浜へと向かった。
ここ数日色々と考えすぎたので、久しぶりに浜でも走って頭の中を整理したかった。
混乱した時は、とりあえず動く。
運動していたり仕事をしたり、動いているとその間は何も考えなくてすむ。
…のだが。
ローク・エルグでの仕事は既に『体が覚えている』状態なので、考えながらでも普通に作業ができる。それでは意味が無い。
頭の中をまっさらにして、それからちょっと整理しようと思い、普段最も顔を出さないこの地へとやってきたのだった。

 

バスの砂浜では、恋人であるジョシュアが訓練中だった。
「あ…」
「おぅ、ポーラ。
 …どうした? またなんかあったのか?」
ポーラに気付いたジョシュアは、砂浜ランニングを切り上げてポーラの元へとやってきてくれた。
「ううん…。
 あ、ゴメンナサイ、なんか邪魔しちゃったみたいですよね」
「いや、いいんだ。
 どうせ1度休憩しようと思ってたところだからな」
ジョシュアは確かに疲れきっていた。慌ててポーラは持っていたタオルを差し出す。
「お、悪いな。ちょっと借りるよ」
そう言って受け取ったタオルで汗を拭くジョシュアを、ポーラはただ見つめた。
「…イイオトコ、なんですよねぇ…」
「だろ?」
「即答ですか!」
つぶやいた賛辞に、当たり前のように返された。
「…何だよ、なんか不満なのか?」
「ううん、そういう意味での不満は全然ないです。
 ただ…やっぱりちょっと考えちゃってて」
結局、頭の中をクリアにする事はできなかった。
代わりにポーラは、これまでずっと考え続けていた事を、そのまま全てジョシュアに伝えてみる事にした。

「…なるほどな。
 なんか違う気がする、と」
砂浜の端に2人並んで座り、はるか遠くまで広がる海を見ながら。
ポーラの考えを聞いたジョシュアは、いつもどおりの口調で言葉を返した。
「うん…。
 上手く説明できないんですけど。
 ジョシュアさん、実はすっごくイイヒトで、
 時々話したり、遊びに連れて行ってもらった時は楽しかったのよ」
「『実は』って何だよ…。
 オレは何時だってイイヒトだって」
「あ、ゴメンナサイそうですよね。
 今までだって、なんだかんだ言ってもジョシュアさんにヒドイ事されたなんてなかったし、
 今だってこうして話を聞いてくれたりしますし」
「だろ? オレはオンナノコにはやさしいんだよ」
「ですよね」
側にいる時はきちんと自分の事を見てくれる。
欲しい時に欲しい言葉をくれる。
ポーラを常に年上の余裕で見ていてくれる、いいひと、やさしいひと。
その気遣いは、すごく、うれしい。
だけど。
「でも…何て言うのかな。楽しいけど、それだけなの。
 前にジョシュアさん言ってたでしょ。『最良の相手』って。
 そんな風にまでは、思えないの…」
この数日、混乱しながらも考えた結果が、これだった。
ステキなひとだけど、それだけ。
「そうか。
 オレはお前にとって、トモダチの域を出なかったか」
「そんな感じ…かなぁ。
 何ていうか、恋人って言うよりも、お兄ちゃんって感じ」
「まぁ、それもわかるな。
 オレからしてもお前はあまり、女って感じには思えなかったしな。
 良くて妹ってトコだったからなぁ」
言いながら、ポーラの頭をポンポンと軽く叩く。
「…こういうところも、なんか、ね」
「ん?」
「多分私、『可愛がってもらっている』んだろうなぁ、って」
「ああ…ま、そうだな」
頭においた手を、そっと離す。
そして。
「そういう事なら、そろそろ『協力』も終わりだな」
ポーラを見つめ、いつもどおりの声で、そう言った。
「え?」
「…相変わらず状況を理解しないヤツだなぁ。
 いいか、1回しか言わないからな。
 おまえとは、少し距離を置きたい。
 さぁ、どうするポーラ?」
「え…」
それは、恋人同士の関係を終わらせる言葉。
トモダチの境界線を越え、お互いの『こちら側』から相手を外へ送り出す言葉。
正直、この関係が終わってしまうのは寂しかった。
この国のどこかに『恋人』がいて、その人に会えるかもしれないとドキドキする生活。
顔を合わせれば優しい言葉をかけあい、時にはどこかに遊びに行く。
確かに、相手のいない時にはできなかった生活だった。
…でも。
先を見通すことのできない関係を続けて行くのは、不毛なだけだ。

だから。

「…私、も、そう思ってた…」

ポーラは微笑んで、彼の言葉を受け入れた。

 

「…って事で、ただの友達に戻る、と」
「そういう事ですね」
「オレも結構楽しかったよ。
 確かに『最良』だとは思えなかったけどな」
「私も。
 今までありがとうジョシュアさん。
 早くジョシュアさんに『最良の相手』が見つかるといいですね」
「お前もな。
 自分が納得できるいい相手に会えるといいな」
「うん!」
「じゃ、ま、よろしくな。
 これからも、会ったら気にしないで声かけろよ」
「こちらこそ!」

お互いに、どこまでも笑顔で。
2人はそれぞれ別の日常へと歩き始めた。
しっかりと前を向いて。

 

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***

照れ隠しと言う名のコメント

って事で、誰かと一緒にいる事の楽しさを教えてくれたジョシュアさんとお別れいたしました。
ネタがネタですので、ネツゾウやり取りが大量に入ってます。もちろんゲーム上では「バスの浜でぶつかって、別れを切り出されて了承した」ってだけ。
それまでの流れもあって、こんなやり取りがあったんだろうなぁと妄想した結果がコレになります。

個人的に、ジョシュアさんは結構イイオトコだと思うんですよねぇ。
ただ、ポーラには合わなかった、って言うか。ジョシュアさんだけを見続けるだけの『何か』が足りなかったと言うか。
『彼女たくさんいるけどオンナノコへの気遣いはできるオトコ』と別れて何故『情緒を解しないオトコ』を選んだのか。
正直、この先のメインイベント(ジャメルさんとのターン)へのハードルを無駄に引き上げた気がします(笑)。べ、別に眼鏡で選んだんじゃないんですよ!(誰もそんな事言ってない)

 

実はこの日の夜、アラクトの恵み亭でナディアさんをとっ捕まえて決意表明するポーラ(笑)みたいなシーンもちょっと考えたんですが、おもいっきり蛇足っぽかったんでまるっと削りました。
(当日夜にアラクト亭でナディアさんと一緒のスクショはある。…って言うかプレイ日記にも使った)

 

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