196年2日:ローク・エルグ長邸宅の話 -彼女の長考-

「…明日、どこかに行くか?」
ポーラの夫、ジャメルからの『お誘い』は、いつも突然。
この日も、朝食を食べている時にそう切り出された。
「明日、ですか? 嬉しいな。
 じゃあいつもどおり、王宮前通りで待ち合わせしましょうね」
彼女自身も、断ると言う事を知らないのではないかと言えそうなほどに、誘われたら遊びに行くという事を繰り返している。今回ももちろん笑顔で了承した。

2人で暮らし始めた当初の混乱期を乗り越え、最近では穏やかな暮らしのペースを掴みつつある。
朝食時は、貴重な2人だけの会話時間。
共に同じ家で暮らしているとは言え、いつも一緒にいるわけではない。
朝食を取りながら、前日に起きた出来事や今思っている事、わざわざ他人には話さないであろう他愛ない話などを(基本はポーラが一方的に)話す。
相手の出してきた話題に、共に笑い、時に茶々をいれ、あまりにも素っ頓狂な話であれば自分なりの意見を述べる。
お互いが1人だった時には無かったこの時間は、あっという間に過ぎさってしまう。
そんな楽しい朝食の後はそれぞれ、お互いの行動パターンへと速やかに移行。
ポーラはローク・エルグへ。ジャメルはシルフィス・ティルグへ。
それが、いつものパターンだ。
…しかし今日は「仕事始め」の日。
いつもは朝食後すぐに家を出るポーラも、今日は少し遅い。
いつもと変わらぬ時間に家を出た夫を、珍しく家から見送った。

(明日、明日かぁ…)
ひとり家に残って椅子に座り、ポーラはボンヤリと翌日に思いを馳せた。
明日は3日。つまり、とくべつな日。
結婚してから初めての『2人の誕生日』だ。
(…だからお誘いしてくれたのかなぁ)
と、一瞬考えて、すぐに「うん、多分違う」と声に出して否定した。
ジャメルはそういった情緒とか、雰囲気とかを汲んで行動すると言う事はほとんどない。今回のもおそらく偶然だろう。
でも。
彼の行動が偶然だとしても、自分からは何かしたい。
「基本はケーキ、なんだろうなぁ…」
頬杖をついて、つぶやく。
結婚前には知らなかった事だが、実はジャメルはかなりの甘い物好きだ。
朝からジャムトースト、ジャムパン、パンケーキ、フルーツサンド。
もちろん顔色一つ変えずにしっかりいただく。
もちろんポーラ自身が調子に乗ってたくさん作っているというのも理由の一つではあるのだが、1度など、何故かジャムだけテーブルに乗せると言う事もあった。ポーラが後から慌ててロツパンを並べるといったほほえましいエピソードだ。
こういう人だから多分、ケーキ作ったらほんのりとでも嬉しく思ってくれるだろう。
「ケーキのレシピって、前に貰ってましたっけ…?」
つぶやきながら、レシピをまとめてある自分専用棚を探る。そしてレシピを見つけてため息をついた。
…ダメだ。多分今からじゃ材料が手に入らない。
ケーキを作るために必要な大きなロツが、ローク・エルグ長のポーラには、とてつもなく遠い。
時々ジャメルが何処からか調達してくる(とてもうらやましい!)事もあるが、残念ながらこの日は共有棚にも在庫が無かった。
「黄金のワクマならいっぱいあるんだけどなぁ」
それはそれでうらやましい環境ではあるのだろうが、現状では何の役にも立たない。
しばらく考えた結果、ポーラはこの案を『なかった事』にした。
どの道、仮に材料が揃ったとしても、今のポーラの料理の腕ではいろいろと失敗する可能性が高い。
いきなり難易度の高い事に挑戦しても、多分上手くいかないだろう。
しかしケーキがダメだとすると…。
「プレゼント…?」
(…って言うか、オトコノヒトへのプレゼントって、何あげればいいのかしら…?)
実際のところ、それも難しい。
結婚前、と言うか婚約前は比較的いろいろと喜んで受け取ってくれていたのだが、実はジャメル本人はあまり物に執着しないタイプだったらしく。
婚約した後はほとんどプレゼントを受け取ってくれなくなったのだ。
時には試合を応援する為の『勇気の一輪』すらも「大丈夫だ」と言って受け取らない始末。
実際に大丈夫かどうかではなく、こちらの気持ち的に受け取って欲しいのだが…。
唯一断らずに受け取ってくれたのが『ワ国の輪』なのだが、それは去年プレゼントしているので、まったく同じ物ではない方がいい気がする。
じゃあどうする?
どうすればいい?
他に何ができる?
他に何かある…?

…と、延々と1人で考えていたら、危うく仕事始めの儀式に遅れそうになったのだった。

 

 »


 

***

照れ隠しと言う名のコメント

結婚翌年の誕生日前日です。

基本的にゲーム内史実に照らし合わせて物語を形作る予定なのですが、この時期の話では1箇所、史実を捻じ曲げている部分があります。
それは、毎日家に通ってくる前カノさんと、その前カノさんを追いかけてやってくる男性2人の存在。
まだ自分の中で、どういう立ち位置にしたらいいのかが見えてこないのですよorz
前カノさんなんて、この時点でポーラを友人だと思ってるのにさ、どうしたらいいんだかorz

まぁ、彼女達に関しては後で考える。

 

誕生日デートに誘われたのは本当です。
って言うか、ジャメルさんのデートアタック(笑)のペースの関係で、うまい具合にこの日に誘われるんですよねぇ。
198年まで3年連続で誕生日デートに行ってます。あれ、何で199年はずれたんだっけかな…。もちろん当日には誘っていただけたんですが。
で。
よく考えたら、せっかく「誕生日」って言うステキイベントなのに、ゲーム内ではデート以外何もしてないなぁ、と思いまして。
おりしもtwitter上で軽く誕生日ネタを見たところだったので、ちょっと考えてみたのがこの話になります。ある意味プチ便乗でした。

ゲーム内史実を織り交ぜているので、ポーラの回想内に出てくるジャメルさんが比較的マヌケな事をしでかしてます。
朝から甘い物とか、ジャムオンリーとか。
…まぁ、ホントにやってたんだから仕方ないですよね!

 

 »


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です