195年3日:王宮前大通りの話-彼の認識-

結婚式まで、後5日。
この日も予定を入れていたジャメルは、いつもの時間に王宮前大通りに足を運んだ。
ここに「婚約者と出かける」為に向かうのももう、慣れたものだ。

ジャメルが2年前に初めて彼女に会った(今考えてもあれは単なる偶然の事故だった)時は、まさか自分がその小さな娘と結婚する事になるとは思わなかったし、こんなに頻繁に2人で遊びに行くようになるとも思わなかった。
ここまで彼女に精神的にも肉体的にも引きずり回される事に苦痛を感じないとは思っていなかった。
…それどころか、彼女に対してはジャメルの方から誘いの声をかける事の方が多い。
これには彼自身も驚いている。
彼女に会うまで。付き合い始めるまで。
彼にとって大事だったのは自分自身だけで、強くなる事、騎士になる事、そしていずれ騎将になる事が望みの全て。
望みはそれなりに叶い、ジャメルは今年、シルフィス・ティルグのイクルス騎士隊騎士長を務める事になった。
今年開催されるDD杯への参加も決まっている。
他にも恋人はいたが、会いには行くものの積極的に動く事も少なく、キスから先の関係に進まなかった。もちろんこれは彼女に自分以外の別の恋人がいた事も関係しているのかもしれない。
そんな、自分だけを見ていたそれまでの生活を曲げてまで関わりたくなる程に。
自分だけを見ていたそれまでの生活を変えられる事すら望む程に。
今のジャメルは、婚約者であるポーラ・スターに接する事に、心地良さを感じていた。
「…ここ1年でオレも、相当『染まった』って事なんだろうな…」
そうつぶやきながら王宮前大通りに足を踏み入れる。
そして、わかりやすい目印である人の集まりを探した。
ポーラの周りには、常に人がいる。
仲の良い女友達との他愛ない会話、顔を合わせるだけでしかない相手との挨拶。
時々、別の男から本気の告白を受けている瞬間に居合わせてギョッとする事もある。もちろん彼女がそれに色よい返事をする事はない。
初めて目の前でやらかされた時は慌てて走りよって強引に彼女をその場から連れ出したが、その後「信用してないのか」と不満気な顔で文句を言われた。それで珍しく揉めた。
(…信用しているしていないの問題じゃない、って事を少しはわかれ)
と、自分の事を思い切り棚に上げた感想を抱きつつ見渡したが、この日は明確な目印を見つける事ができなかった。
普段なら彼女の方が先に来ているのに。
そういえば今朝は何故か、洞窟前通りですれ違った。
いつもならジャメルが家にやってくるまで待っているのに、今日は簡単に挨拶をした後、家とは逆の方向へと走り去っていった。
普段と違う、彼女の行動。
ほんの少しの違いなのに、それだけで妙に不安になる。
(…何か、あったのか…?)
あと少しだけここで待ち、それでも来ないようなら家まで行ってみようと思っていたら、何事も無かったかのように彼女は待ち合わせ場所に姿を現した。
ただ、いつもとは逆、メイビ区側からの登場だったが。
「…ポーラ!」
呼びかけて、走り寄る。
「あっ、ジャメルさーん」
こちらに気付いたポーラはすぐに笑顔で答えた。その笑顔には特に普段と変わったところはない。ないけれど。
「ごめんなさい。今日はちょっと遅くなりました…」
「いや、たいして待ってない。
 珍しいな、お前が遅れてくるなんて」
「うん…ちょっと、ね」
少し歯切れの悪い物言いは珍しい。
今までの経験から、話したい時にはこちらが聞きたくなくても話す、という事がわかっているので、こちらからは触れないでおいた。
本人が話す気になったら、その時に聞けばいい。
「じゃあ、行くか。
 …西公園でいいか?」
「うん!」
どちらが何かを言う事もなく、2人で手を繋いで。
並んで西公園に向かって歩き出した。

 

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***

照れ隠しと言う名のコメント

王宮前大通りでの待ち合わせ。
誰にも言わないデレッデレなジャメルさんです(笑)。

実際に態度で示す事なんてほとんどないので、なんか試しに脳内で語らせてみたら、想像以上にデレッデレになりました。
自分はまだ別の彼女と切れてないってのに、何言ってんですかねこのオトコ(笑)。
(ちなみにこの彼女さんと別れるまでに、結婚後1年かかってますorz)

 

『for my bitter half』でポーラが疑問に思っていた『サクッとジャメルさんに見つけられてしまう理由』を入れてみました。
要はジャメルさん、直でポーラを見つけてる訳じゃないのです。周りの人を見て、その辺りにいるという当たりをつけて探しているから、発見が早いのですよ。

 

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