193年20日:ナルル王宮前の話-2人の差-

「さて、と。
 これからどうしようかなぁ…」
投票を終え、人の群れから少しだけ離れたところでポーラはつぶやいた。
コンテストの結果がわかるのは、夕刻に入ってから。
投票前に挨拶をした人たちも、投票後には思い思いに他の誰かと話をしていた。
(…まぁ個人的には、特に急いで『相手』を探す気もないんですけどね。
 一応イベントですから、ちゃんと参加しておきたいな)
そう思いながら辺りを見回すと、自分と同じようにほんの少しだけ人々から離れたところに立つ男を見つけた。
多かれ少なかれ誰かとの会話を楽しむ人々の中で、彼は1人、誰と話すでもなく広場の喧騒を外側から見ているだけのように見えた。
ティルグの帽子の下に見える表情は、たまにポーラが見かける微妙に不機嫌そうなもの。
(さっきと違う…。やっぱりあの瞬間はレアだったのかなぁ)
なんとなく気になったので、ポーラは彼に話しかけてみる事にした。

「トーンさんこんにちは!」
「ああ…スターさんか」
長身のジャメルを見上げる感じで話しかけたポーラに、いつもどおりの薄い反応が返ってきた。
(…あ、やっぱりこんな感じだ)
その変わらなさになぜか安心し、ポーラはなおも話しかけた。
「さっきちょうど、トーンさんが投票するところが見えたんですよ。
 えっと…ケレルさん、でしたっけ?」
「ああ」
「結構仲良さそうに見えましたけど…
 彼女さんだったりしますか?」
もしかしたら、と言うちょっとした質問をしてみたポーラに、ジャメルはちらりと視線を向け、うなづく事で肯定した。
「おー、やっぱりそうでしたか!
 同じティルグの方のようですけど、それだけ、って感じには
 見えなかったんですよねぇ」
自分にはそんな相手がいない割に、そういう恋愛話も嫌いではないポーラ。
知らなかった知人の交友関係を知って、顔が自然に笑顔を形作った。
一人で勝手にうんうんと頷きながら、候補者たちを見る。
「そっかぁ、美人さんですねぇ。
 今回の候補者の一人でもありますし、人気のある方なんですねぇ。
 …でも、ちょっとだけ意外」
「どういう意味だ」
「いえ、トーンさんあんまりそっち系に興味なさそうに見えてたんで」
「…」
正直に答えたら、沈黙が返ってきた。
(あれ、何か言っちゃいけない事言ったかなぁ)
と、心配になったが、よく考えると彼との会話はいつもこんな感じだった。会話は長い事続かない。
何度か話してわかった事だが、彼は自分から話を振るのも、話を膨らませる事も苦手らしい。
ポーラが話した事に薄く反応を返すだけ、と言う事の方が多かった。
(私はそれでもいいんですけど、トーンさんは楽しいのかなぁ)
表情の変化もあまり見せないジャメルを見上げて、ポーラは少し心配だった。
つまらない、むしろ迷惑になっているのだとしたら。
あまり寄って行かない方がいいのかもしれない。
…少し淋しいけれど。

「よおポーラ、元気か?」
声と同時に、背後から突然頭をぽふぽふとたたかれた。
振り向くとそこには、ジョシュアがいつもの笑顔で立っていた。
「あっ、ジョシュアさん! もちろん元気ですよ!
 もー。だからぁ! そんな気安くポコポコたたかないでくださいよ」
両手で帽子を押さえつつ抗議の声を上げるポーラに対し、ジョシュアは軽く笑いつつ返してきた。
「いいじゃねぇかこれくらい」
「…そりゃ、減りはしないですけどね。
 上から押さえられると、ただでさえ低い背がもう伸びなくなりそうで…」
「んな訳ないだろ。
 どっちにしてももう、背が伸びる年じゃないんだろ。手遅れ手遅れ。
 …いや、お前の場合は見た目ガキっぽいから
 もしかしてまだ成長期だったりしてな。
 背に限らず、いろいろと発展途上だし」
「ひどいー! 子供じゃないです! もう成長期は終わったのー!」
「伸びて欲しいのか欲しくないのか、どっちなんだよ」
移住当初からエルグで話をしてきたジョシュアとは、数日振りに会った途端に会話がどんどん続いていく。
それは、『あの事』の後でも変わらなかった。
「って言うか、お前…。
 ちっちゃいの気にしてるんなら、こんなでかい男の脇になんて立ってるなよ。
 小ささが際立つだろ」
確かに、ポーラからするとジョシュアもそれなりに長身ではあるが、ジャメルの方がより高い。
「い、いいんですよ。
 コレだけ違うと、むしろ『具体的にどれだけ小さいのか』は
 わかりにくくなるんですから!」
「そうかぁ?」
本人が納得してるんならいいけどな、とつぶやく。
そんなジョシュアに、ポーラは思った事を聞いてみた。
「…そういえばジョシュアさん、今回は候補じゃないんですね」
「まーな。
 って言うか去年出たのだって偶然だ。
 ま、つまりオレよりもっと人気のあるオトコはたくさんいるって事だよ」
さらりと返された。
このコンテストの候補者は、国民からどれだけ異性として人気があるかで選出される。
つまり、『何人とお付き合いをしているか』が候補になる基準。
人気者として掲示板に名前の載っているポーラの場合、人気はあったとしてもそれは『女として』ではない。なので候補者にはならないのだ。
「って事は、エッカートさんもミローさんもジョシュアさん以上…」
最近その選出方法を知ったポーラは、男性候補の2人を見て、思わず遠い目をしてしまう。
この際女性候補については考えない事にした。
「何だよそのアレな発言は…」
ジョシュアには複雑そうな顔で見られたが、気にしない事にする。
「…まぁいいか。
 じゃ、ポーラ、またな」
「ハーイ。またねジョシュアさん」
軽く最後の言葉を残し、ヒラヒラと手を振って。
振り返ることもなく、ジョシュアは候補者たちの方へと歩き去っていった。
途中、何人かの女性に声をかけられているところを見ると、人気に陰りがあるわけではないらしい。本当に、『より人気のあるオトコ』が増えた、と言う事なのだろう。
その後ろ姿を、ポーラはニコニコと見送った。

 

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照れ隠しと言う名のコメント

そもそもポーラにほぼ興味がないので会話が弾まないジャメルさんと、一度は『おつきあい』までしたので会っただけで会話が弾みまくるジョシュアさん。
(って言うかジョシュアさんは女の子には基本ヤサシイので、コレくらいの会話ならお手の物)
このシーンだけ見て、『ポーラはこの後ジャメルさんと結婚する』なんて思う人何人いるんですかね(笑)。

このページのタイトル『2人の差』ってのはもちろん、ジャメルさんとジョシュアさんのオトコとしての差もありますが、ポーラとジャメルさんの身長差の事でもあります。
2人の身長差は「頭一つ分くらい」と考えてます。で、ポーラは150cmナイくらいですので…多分ジャメルさんは180前後? って言うか「頭一つ分」って大体どれくらいの差になるんですかね。(多分2~30cmくらいの差だと思ってるんですけど)
ちなみにジョシュアさんは170チョイくらい。今回名前のみですが、友人のバルトロメイさんは、ジョシュアさん+2~3cmくらいで考えてます。

 

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