193年5日:王宮前大通りの話-おためし-

「やぁポーラちゃん」
「あ、バルトロメイさん、こんにちはー!」
「最近、なんか変わった事とかあった?」
「んーん、ぜんぜーん。
 って言うか一緒に遊びに行くような人もいませんしねー」
「いいひと見つからないよねー」
「ですよねー」
「…お前らまだそんな事言ってんのかよ」
「あ、ジョシュアさんこんにちは!
 でも、ジョシュアさんみたいに相手がたくさんいる、ってのも、どうかと思いますよ」
「オレは『いつか会える最良の相手』を見つける為に、いろんな女を見ているだけさ」
「わー勝手な事言ってますー」
「まぁ、人それぞれ、やり方は色々とあるからね」
「だからポーラ、試しにオレとつきあってくれない?」
「えー? 早すぎるんじゃないですかぁ?
 って言うか私だったら、とっかえひっかえ、って言うより同時進行バンザイのジョシュアさんよりも
 一途に見てくれそうなバルトロメイさんの方がいいなぁ」
「ちょ、ちょっと何言うんだよポーラちゃん。
 やめてよ恥ずかしいじゃないか」

ローク・エルグで度々交わされる、若い男女の少し浮かれたやり取り。
3人の間に特別な関係はなく、そのやり取りは純粋に仕事仲間の世間話。

それだけだった。
年が明けるまでは。

 

ナルル王国歴193年5日。
ポーラがエルグ長に任命されて5日。
着慣れないジャケットに被り慣れない帽子。
暮らす家の位置がシンザー区からローク・エルグ長邸宅に変わったので、家から仕事場への移動は楽になった。
その分、自発的に出歩くようにしないと、本当にローク・エルグの敷地から外に出ない生活になってしまう。
そう思ったポーラは、時々仕事の手を休めて、普段は行かない場所をのんびり歩く時間を作るようになった。
この日は、アラクトの辻をメイビ区方面へとのんびり歩いていた。
あまり人通りのない時間帯ではあったが、ふと前方に目をやると、バルトロメイが自分の方に向かって歩いてくるのが見えた。
「あ、バルトロメイさん!」
「やぁポーラちゃん」
「おはようございますー。
 …あれ、なんかニコニコしているみたいに見えますけど、調子はどうですか?」
「最高さ!
 …実はね…」
浮かれっぷりを隠そうともしないバルトロメイは、不思議そうな顔をしたポーラに理由を語り始めた。
「明日、ミコトさんとデートなんだ」
「え…?
 ソレってつまり、恋人ができた、って事ですよね!」
「そうなんだよ!
 この前ミコトさんから誘われてさ、明日が初デート」
「うっわぁおめでとうございますー!
 よかったですねー!」
「ありがとうポーラちゃん。
 もう、今から楽しみで。世界がセシリアの花色に見えるよ」
「うわー、そ、それはさすがに浮かれすぎ…?」
「そ、そうかな。確かにそうかも。
 うん、少し落ち着こう」
そう言いながらも全く落ち着く気があるようには見えないバルトロメイだった。
「…まぁいいや。
 とりあえず僕はこれからローク・エルグに行くよ」
「うん、お仕事頑張ってくださいね!
 私はもう少しお散歩してから仕事する事にしますー」
「そっか。じゃ、またエルグでね」
ポーラに手を振ったバルトロメイは、鼻歌を歌いながらローク・エルグ方面へと歩いていった。
その姿を見送ったポーラはバルトロメイとは反対の方向へと歩き出した。

「…そっかぁ、バルトロメイさんにも彼女さんができたんですねぇ…」
1人歩きながら、そう、つぶやく。
友人のシアワセ。
それはとても嬉しい事であるはずなのに。
「…なんで?」
自分の心の中が良くわからないままに、フラフラとポーラは歩き続けた。
なんだか少し、胸の奥がモヤモヤする。
何故、心から、純粋に、喜ぶ事ができないんだろう。
…実は、もしかしたら私、バルトロメイさんの事が好きだったから…?
「…うん、それは違う」
口に出して否定する。
確かにバルトロメイの事は好きだが、それはあくまで友人として。仕事仲間として、だった。
なので、自分がバルトロメイの彼女に…という想像をしても、なんだかしっくりこない。
あくまで、彼は友人。
じゃあ、何でちょっと寂しいのかな。
『相手ナイ同盟』の仲間として、置いていかれたような気持ちになってるのかなぁ…。

 

いつしかポーラは王宮前大通りまで歩いていた。
ここはいつでも待ち合わせをする恋人たちで溢れている。
ポーラはまだ、そういった意味でここを利用した事がない。
ここで『誰か』を待つ事を、『誰か』に待っていてもらう事を、うらやましいと感じる事は今まであまりなかった。
でも、今日は。
連れ立って歩くたくさんの『2人』を見ていると、なんだかとても寂しかった。

「…よぉ、こんな時間に珍しいなポーラ」
ふいに後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには、真新しいアクアス・ティルグの服を着たジョシュアが立っていた。
見慣れない恰好のジョシュアは、友人としていつも話をしていた彼とは違う人のようにも見えた。
「あ、ジョシュアさん…。
 アクアス・ティルグ員になったんですね。おめでとうございますー」
「おう、その分あんまりエルグに顔も出せなくなっちまったけどな」
「あぁ、それで今年はまだエルグで顔を見ていなかったんですね」
「そういう事」
「そっかー。
 エルグ長としては、なんだかフクザツです…」
「ハハッ、ま、たまにはそっちにも顔出すわ」
見た目はちょっと変わっても、そうやって笑ったジョシュアの顔は去年までと同じ。
その笑顔になんだか安心して、ポーラも笑顔になった。
「…ところで、どうしたポーラ。
 元気ないな」
「え? そう見えますか?」
「ああ、なんかちょっと、な」
自分ではそこまで変化はないと思っていたのだが、少なくともジョシュアには違和感を与えるような顔をしていたらしい。
「んー、特に大きな理由があるわけじゃないんですよね。
 …ジョシュアさん、バルトロメイさんの事、知ってますか?」
「バルトロメイ? アイツに何かあったのか?」
「そっか、知らないのか…。
 こういうのはやっぱり、自分で言った方がいいと思うんですけどねぇ」
「いや、いいだろ。
 オレはそこまでバルトロメイと親しい訳じゃないし、本人から直接何か言われる事なんてないと思う。
 って言うかぶっちゃけ、オトコの事情なんてどうでもいい」
「…ヒドイ事言ってますよねぇ」
なんだか釈然としない気持ちのまま、ポーラは先程バルトロメイから報告を受けた内容をかいつまんで話した。
聞き終ったジョシュアは、たいして面白くも無さそうにつぶやいた。
「バルトロメイに彼女、ねぇ。
 って言うか相手エジョフさんかよ。よりによってモテ女王じゃねぇか。
 こりゃアイツ苦労すんぞ」
「そ、そうなんですか?
 なんかすごく嬉しそうだったんですけど」
「そりゃ、彼女ができれば浮かれもするさ」
さも当然のように付け足す。
「…ジョシュアさんも、彼女ができたら嬉しいですか?」
「え? ああ、そりゃなぁ。
 まあオレの場合は慣れたもんだから、そこまで浮かれる事はないけどな」
「やっぱりヒドイ事言ってる気がするんですよねぇ」
微妙に不満げなポーラを見ながら、ジョシュアはニヤリと笑った。
「…で、お前は『1人になって寂しい』と」
「そうなのかなぁ」
「だってそうだろ、普段から仲良くやってるやつに特定のオンナができたら
 そりゃ『そういう気がない』身としては遠慮する、って事だろ?」
「まぁ、そこはそうですよねぇ」
そこまではポーラ自身にもわかっている。
今まで一緒に話をしてきたバルトロメイとは、この先、今までとまったく同じような関係ではいられないだろう。
でも。
「それで、お前の方はそういう相手がいないから寂しい、と」
「そこがよくわかんないんですよねぇ。
 だって今までだっていなかったわけですし、それ、関係あるのかなぁ」
ジョシュアと話をしていて、なんとなく気持ちが整理できてきた気はするが、ポーラがわからないのはこの部分だった。
理由の説明がつかない寂しさ。それは単に、『友人』がほんの少し遠くに行ってしまったから感じていた事ではないのか。
目の前にいるジョシュアとも、これからはあまりエルグで顔を合わせる事もなくなる。
去年までの気楽なやり取りが、遠くなってしまったからだけではないのか。
でも、それだけではない気も、確かにしていて。
…そんな思考を遮ったのは、ジョシュアの言葉だった。
「だったらさ、試してみるか?」
「何を?」
「相手がいたら寂しくないのか、をだよ」
「え?」
ポーラは目を瞬かせ、ジョシュアを見上げた。
「な、なんで試すって話になっちゃうんですか?」
「わからないならやってみる。簡単な事だろ。
 それなら協力できるからな」
「きょ、協力?」
「…状況を理解しないヤツだなぁ。
 いいか、1回しか言わないからな。
 オレと付き合って欲しい。
 さぁ、どうするポーラ?」
「え…」
それは、恋人同士の関係を始める言葉。
トモダチの境界線を越え、お互いの『こちら側』に相手を呼び寄せる言葉。
いつもなら、絶対にかわしてしまう。
でもこの日のジョシュアは、いつもとは違ってちょっとだけ真剣で。
真剣な中でも、その黒い瞳の奥にはいつもどおりの悪戯っぽい光もあって。
普段エルグで話をしている時とは違って見える、アクアス・ティルグ員になった人。
いつもなら、絶対に答えないその言葉。
…でも。
もしかしたら、本当に、『側に誰かがいないから』寂しかったのかもしれない。

だから。

「…こちらこそ!」

ポーラは微笑んで、彼の言葉を受け入れた。

 

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***

照れ隠しと言う名のコメント

ポーラの前カレさんとの話です。
顔こそ3系ですが、カレも実はちちもら(笑)。(どんだけちちもら好きなの中の人)
…なので、ところどころでゲームから持ってくる台詞がジャメルさんと一緒なんですよね。違いを出すのにちょっとだけ苦労しました。
結果、ジョシュアさんの方がえらくやんちゃ系になりました。
(ナニ、たいして違わない? スイマセン筆力なくてorz)
え、優しさ-2? それはオトコに対して、って事で(笑)。

ゲーム内でもまさに流れはこんな感じでして。
エルグで仲良く話をしていた彼女ナシにいつの間にか彼女ができてて、妙に(中の人が)ショックでヨロヨロしてたら、今までずっと冗談告白しかしてこなかったジョシュアさんがふらっと近づいてきてマジ告白を…。
「このタイミングでそれはキタナイだろう!」とPSPに向かって素でツッコミを入れた瞬間でした(笑)。
南方系のステキ男子だったんですけど、その肌の色が「チャラ男の日焼け」みたいに見えたのはナイショです(笑)。
で、思わず了承した、と。

 

作中、ポーラが訳の分からない移動をしていますが、ゲームプレイ時も大体そんな感じのルート取りをしていたようです。
(残っていたスクショから確認)
アラクトの辻からメイビ区方面に抜けて、王宮前大通りへ。ここでジョシュアさんにホカクされてました。
…当時、何考えてこんなお散歩ルートにしたのか…未だにナゾです(笑)。

 

って事で。
この日から10日程、あまりにも中途半端な彼氏持ち生活が始まります。

 

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