194年30日:王宮前大通りの話 -そして、いつもの2人-

今年も今日で終わる。
年が開ければ、結婚式まであと少し。
そうは言っても、婚約後も2日に1度は2人で出かけている有様なのだが。
毎日、朝起きれば相手の元へと通う。相手と言葉を交わすことで始まる1日。
2人の家の位置は決して遠い訳ではないが、その些細な距離すらももどかしい日々。
あの日から2人で『一緒に暮らす日』について、話してきた。
ずっと1人で暮らしてきた2人が、初めてこの国で『2人で』暮らす。
それはどんな生活になるのだろうか。
とは言っても、どんなに楽しみでもそればかりを考えている訳にはいかない。
時が来れば、ポーラはローク・エルグへと。ジャメルはシルフィス・ティルグへと。
今年1年をそれぞれのやり方で締めくくる事になるのだ。

 

小雪のちらつく中、ヤァノ市場での買い物を終えたジャメルは1人、自宅へと向かっていた。
1度家に戻り、その後またティルグに訓練に行くつもりだった。
今年からイクルス騎士隊に昇格している身としては、降格などありえない。
できるだけ強く、できるだけ高みへと自分自身を押し上げたいと言う欲求もある。
来年にはDD杯も控えている。
エントリーされるかどうかは未定だが、後悔のないようにしたい。
買い求めた訓練用具を手に王宮前大通りを颯爽と歩いて…いる時に、背後の異変に気付いた。
何かが背後からすごいスピードで近づいてくる…!
思わず振り向いたジャメルに、その物体はそのままドーンとぶつかってきた。勢いに負けかけて2、3歩後ずさる。
ぶつかってきた挙句にジャメルの体をしっかり掴んで話さないその物体は…。
「ぽ、ぽーら?」
最愛の婚約者だった。
「ちょ、お前、一体どうし…」
「うわーんごめんなさいー」
「な、何が!」
「何かいろいろと大変な事になっちゃいましたー!」
「だから何がだ! いいからまずは落ち着いて話せ」
ジャメルはポーラの肩をつかんで、多少強引に引き剥がした。
大丈夫、泣いている訳ではない。ただ、困惑がありありと表情に表れている。
「う、うん…あのね…」
「いや待て、ちょっと移動しよう。ここはあまりにも邪魔すぎる」
往来のど真ん中で騒いでいれば、それはとてつもなく目立つ。
年の瀬の喧騒を潜り抜け、手近なベンチに2人で座る。
ここは恋人たちの待ち合わせスポットでもある。そんな所で2人で座っていれば、目立つには違いないのだが…とりあえず彼女を落ち着かせるのが先だ。
「一体何があったんだ」
「あのね、今日、エルグで選挙があったの」
「まあ、そういう日だからな」
「で、私今年もポイントたくさん稼いでたから、投票される側だったの」
「そうか。で?」
「…当選しちゃったの」
「は?」
「だから! エルグ長になっちゃったの!」
「よ、良かったんじゃないのか?」
「だって!
 エルグ長になったって事は、明日からエルグ長邸で暮らすって事なの!
 って事は、私、そこから動けないって事なの!
 ジャメルさんの家にお引越しが出来なくなっちゃったって事なのー!」
(…なんだそんな事か…)
ジャメルは激しく脱力した。
確かにここ数日の話の中で、結婚したら何処に住むのか、と言う話もチラリと出てきてはいた。
双方共にこだわりはなかったが、ポーラは『もしどちらかの家にどちらかが引っ越すのなら、引越し慣れしている自分が移動した方がいい』と言っていた。
『ジャメルさんの生活に私が入っていくってのも、ちょっといいかなぁ』なんて事を、頬を赤く染めて、いつものようにふにゃんとした笑顔で言っていた。
もちろんどうなるのかは当日になるまでわからないのだが、彼女の中のささやかな希望ではあったらしい。
「ジャメルさんがうちに来る事確定になっちゃったんですよ…。
 しかもローク邸なんて、ティルグにすごーく遠いところですし。
 来年結婚するのは決まってますけど、それまでは家が離れちゃうって事ですし。
 選んでもらった事はすごく光栄ですし、仕事はもちろん頑張りますけど、家の事はー」
例によって、余裕がなくなった時特有の話し方になってきている。
このまま放置すると、また想定外の方向に暴走していきそうだ。
ジャメルは彼女を落ち着かせるために、彼女の背中を軽く叩いた。
「そんな事気にするな。
 言っただろう。オレは特にこだわりはない、と」
「それはどっちもメイビ区だったからなんじゃないですか?」
「いや、そうじゃない。特に場所にもこだわってないからな」
「…そうなんですか?」
「そうだ。
 それに、お前がまたエルグ長になるって事は、
 初めて会った時の姿になるって事だよな。それは、悪くない」
「…そ、そうかな。そうかも」
「毎朝会いに行く距離は離れるが、どうせそれも後少しの間だからな。
 大体、オレはティルグに訓練に行く前には市場で訓練道具を買ってから行くのだから、特に問題もない。
 ローク邸からティルグへの移動ルートを少し調整すれば、行きがけに買い物もできる。
 大したロスもなく行動できる」
「そっかー…」
ポーラは深く息をつき、ベンチの背もたれにもたれかかった。
「はー、良かった…」
「納得したか?」
「ハイ。
 そうですよね、後ほんの少しですからね!
 ほんのちょっと離れてみるのも、それはそれで楽しそう。
 …何か明日からが楽しみになってきたかも」
そう言ったポーラは、勢いをつけて立ち上がる。
「さて、と。
 それじゃ私そろそろ帰ります。
 …ジャメルさんはこれからどうするんですか?」
「オレも1度帰る。
 その後また訓練には出ると思うが」
「そうですか!
 じゃ、また一緒に帰りましょうか。いつもみたいに」
「そうだな」
左手を差し出す。
右手で握り返す。
そのまま2人、横に並んでゆっくりと歩き出した。あの時と同じように。

 

2人の世界が一つになるまで、後もう少し。

 

 

「でもこれで、結婚したらジャメルさんいきなりあの雰囲気に飲み込まれる事になっちゃいましたよ」
「…え?」
「朝起きて家を出たら、そこにはもうロークのみんなが働いてるの。
 エルグのイベントの日は、家の前にみんな集まってるの。
 毎日じゃないと思うけど、ジャメルさんが帰ってくる時間に
 ちょうど恵み亭へ向かう方がいると思うから、行動筒抜けなのよ」
「そ、それは、キツイな…」
「でしょう?
 どどどどうしよう…」
となったのは、また別の話。

 

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照れ隠しと言う名のコメント

王宮前大通りの話。

…で、いつもの通りのアフォな2人へ。
いつも、と言ってもそのいつもがどうなのかは全然書かれてないんでさっぱりわからないとは思いますが、基本は『ポーラがウフフと明後日に暴走→ストッパーだよジャメルさん』な関係です。
ストップさせないと、ポーラはジャメルさんを引っ張って暴走していく(つまり一人では行かない)ので、停止させる事が何より大事です。
…ホント疑問に思うよ。ジャメルさんがなんでポーラを選んだのか(笑)。

ポーラとジャメルさんが初めて会った時、ってのは、30質の回答でチラッと書いている通り「ポーラ移住2年目、いきなりエルグ長になった年に市場前でドーンとぶつかった」出来事になります。
(この辺りもいずれ形にしないといろいろとワケわかんないよなぁ) → かきました。
って言うか今考えると、激突から始まるラブコメって、何処の昭和の物語だよ。パンくわえてなかったのが不思議なくらい(笑)。

この2人の新婚家庭はローク・エルグ長邸宅になりました。(実プレイでそうだったんだから仕方がない)
他の家と違って、昼間は騒がしいよ!
それでも他の邸宅と比べると人気少ない方なんですけどね。ロークのみんなはのんびりお仕事ですから(笑)。夕方には閑散としてます。
夜になったらシーンとしてて、むしろ寂しいくらいだよ!
そんな中、連日酒場から1人で歩いて帰ってくるジャメルさん。なんだかちょっとフビンだね! もっと明るいうちに、人通りがあるうちに帰ってくればいいのにね!
まぁ、このヨメ1人いれば「音」自体が不足する事はないんですけどね。料理する時とかデフォルトで歌ってるし、テンパればもっともっと喋るよ!

 

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