195年7日:メイビ区3-1の話-衝動-

…夢を見たらしい。
内容はよく覚えていないが、夢の感情に引きずられて、起きてからずっと妙な衝動に襲われている。
キスしたい。
(待て、落ち着けオレ)
顔を洗って、気を紛らわす。
鏡の中にはいつもの自分。
眼鏡をかけた、(自分で言うのもなんだが)感情の薄い、不機嫌そうな顔。
見たところは、何も普段と変わらない。
だけど、頭の中はいつもと違う。
キスしたい。
(いやいや待て待て。だから落ち着け)
別にキスするだけなら簡単だ。恋人に会いに行けばいい。
彼女は朝、いつも家にいる。基本的に、オレが来るまで家で待っている。
仮に家に行かなかったとしても、今日はこの後、また2人で出かける予定も入っている。その時でもいい。
この程度の要求なら、いつも必ず答えてくれる。というか彼女は断るという事を知らないのではないかと疑問に思うほど、こちらの要求を全てのんでくれる。
だけど今日はいつもの軽い感じのじゃなくて、何と言うか、もっとこう…
(だから! 何なんだ今日は!)
強く頭を振って、朝からの妙な衝動を追い払う。
今の自分は、そんな、ある意味どうでもいい事に気をとられている場合ではない。
明日の夜にはDD杯の試合を控えている。
その前に、自分たちの結婚式が昼に控えている。
なのでそういうのはその後で十分…いやいやいやいや。
なんだか今日は、おかしい。
1人で考えていると、延々と衝動に襲われ続けそうな気がする。
とりあえず彼女に会いに行こう。その後については後で考えよう。
朝食をとる事もせず、最近持ち歩いている鍵だけ持って、家を出た。

この鍵は、今年始めに恋人であり婚約者でもあるポーラから貰った物だ。
『結婚後にはジャメルさんの家にもなるんですから、
 もう先に渡しておくのよ』
いつもの気の抜ける笑顔とともに渡された彼女の家の鍵。
いくら婚約者だからといって、いきなり女が男に自宅の鍵を渡すのはどうなんだ、と思ったが。実際、彼女の今の家で暮らす事はほぼ確定しているので、そのまま受け取っておいた。
まあ、今までこの鍵を使った事はない。
彼女の家は、いつも開いている。誰に対しても開いている。
さすがに深夜は鍵をかけていると思うが、そんな時間に訪ねた事はないので、実際のところどうなのかはわからない。
鍵を持っていくのは、あくまで念のためだ。
同時に、こちらの家の鍵も渡している。もちろんそれも使われた事はない。
多分このまま使われる事のないままに、今のオレの家は引き払われる事になるのだろう。
…その事にも、あまり感慨は沸かなかった。

 

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***

照れ隠しと言う名のコメント

半年って、長いですよね。
そして、最後の日って、妙に長いですよね…。
そういう点においては微妙に同情しますよジャメルさん(笑)。

個人的に、ジャメルさんはそういう系の欲求もそれ程強くない「たんぱくさん」だと思っています。ホント、オンナより武術の方が大事。
ですが、それにしたってゼロじゃないでしょうから、まぁこういう事だって起こりうると思ったんですよね。って言うかそうでないと、この2人には子供できてねぇよ(笑)。ポーラからとか、ホントありえないし。2人目の時ならともかく、最初はリアルコウノトリ娘だったので。

 

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