194年9日:アクティカの古城の話-雨に走る-

『おつきあい』を始めてから、今日で6日。
前日に誘ってもらえたので、ジャメルさんと遊びに来ています。
遊びに行くのは、2回目です。
前に別の方と『おつきあい』をした時は、10日くらい何もしなかった事を考えると。このペースはなんだかすごく早い気もします。
しかも1回目の時に私が『やらかしてしまった』のに、またジャメルさんから誘ってもらえました。なんだか嬉しいなぁ。
でも…何で?

今回の目的地は、アクティカの古城。
この前と同じように王宮前大通りで待ち合わせ、2人で船に乗って、シーラル島へとやってきました。
やっぱり、2人で並んで話しながら歩くって事はないけれど、前回みたいに追いかけるのが大変、って事もなくて。
今回は最初から少しゆっくり歩いてくれたみたいな気がします。時々遅い私を待っていてくれた気もします。これもちょっと嬉しいです。
目の前に見えてきたのは、大きな古城。
ここは、恋人たちの定番のデートスポット…なんですけど、私たちって『恋人同士』なのかなぁ?
もちろん、肩書きはそうなのかもしれないけど、実はまだピンときてません。
…それは多分、私だけじゃなくて、ジャメルさんの方も。
そんな事を考えながら歩いていると、頭にぽつんと当たる、雨のしずく。
「あ…雨だ…」
私の声に気付き、空を見上げるジャメルさん。帽子のつばに雨粒が当たり、軽く跳ねた。
雨は少しずつ地面を濡らしていく。乾いた部分が少しずつ少なくなっていく。
「本降りになりそうだな。
 …少し走るぞ」
「え、あ、はい!」
走り出したジャメルさんを追いかけて、私も走り出しました。
目の前の階段を駆け上り、そのまま一気にアクティカの古城の中へ。

古城の入り口を借りて、2人で雨宿り。
幸い風はほとんどないので、雨が吹き込んでくる事は無いみたい。
私は鞄からタオルを出て、ジャメルさんに差し出しました。
「ジャメルさん、少し濡れちゃいましたから、これ使ってください」
「ああ、悪いな…。
 でも、お前はどうするんだ」
私からタオルを受け取りながら、ジャメルさんが聞いてくる。
「大丈夫です。他にもありますから」
そう言いながら、少し小さめのタオルも取り出す。私はこっちの大きさで充分。
もう1本出てきた事に安心したのか、ようやくジャメルさんも受け取ったタオルを使い始めました。1本しかないタオルを自分だけ先に使うのは、少し気が引けてたのかもしれません。
…あ、帽子取ってるジャメルさん、初めて見たかも。そういう髪型だったんですねぇ。
ワリと珍しい光景ですけど、見てるだけじゃ私が濡れたまま。
視線を外して、私は私の体を拭きはじめました。
服や、顔や、髪にタオルを当てる。乾いたタオルが水分を吸い取ってくれる。
あーあ、髪も濡れちゃった。
このまま放っておいたら、ただでさえ収まりの悪い髪が湿気で大変な事になっちゃうんだろうなぁ。
でも、突然の雨なら、仕方ない。
この後の髪のバクハツについてはできるだけ考えない事にして、外の景色に目を移す。目に映るのは、雨の色に染まるナルル王国。私が今暮らす遺跡と花と海の国。
「…そう言えば、外出時の雨って、初めてかも」
「雨自体、そんなに降らないからな」
横から、というか上から、答えがすぐに返ってきました。
確かに、この国ではそれほど雨が降りません。
だから、たまに降る雨は、それだけでも小さなイベントみたい。
「…雨は、好きですか?」
「いや、あまり」
試しに聞いてみたら、少し否定的な答えが返ってきました。
「そっか。
 濡れると今回みたいに大変ですからねぇ。
 そのままだと寒いし、気をつけないと病気にもなってしまいます。
 でも、私は結構好きです」
「雨が、か?」
「そうです」
少し意外そうに聞き返すジャメルさんに笑顔を返しました。
なんだか理解できないような、フクザツな顔をされている気がします。
でも、ここで理由を聞いてこないあたりが、ジャメルさんらしいと思います。
説明したかったら私が勝手に口を開く。それが、友人になったあの日からずっと続いている2人の間のリズム。
でも今は、なんだか色々言う気にならなくて。
そのまま、2人で黙って雨宿り。
雨は降り始めたばかり。まだ止みそうにありません。

 

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照れ隠しと言う名のコメント

前カレさんに放っておかれた話についてはトモダチの境界線を。初回デートの『やらかした』についてはweak point/charm pointをドウゾ。

このオトコが雨会話に「好きだ」と返してくるようになったのは、壮年inしてからです。
初めてこれが返ってきた時は妙にテンション上がってスクショ撮り捲ったよなぁ(笑)。

 

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